ゼロから独習する将棋ブックガイド2:初級者からステップアップ編
次は7級をめざす
- 次は7級をめざす
- 6〜2枚落ち:そろそろ戦法を身につけてみよう
- 攻めの考え方をもうすこし詳しく知る:藤井猛『藤井猛の攻めの基本戦略』
- 1手詰を解く:日本将棋連盟『藤井聡太推薦! 将棋が強くなる実戦1手詰』
ネットで調べたかぎりでは、前回までの内容をひととおりこなすと、だいたい9級くらいと思ってよいみたいです。
ぼくたちの目標は「独学で5級をめざす」でした。
5級のめやすは「ひとつの戦法を使うことができて、3手詰が解ける」というところのようです。「解けるってどのくらいだ」と言われると難しいですが、ぼくのかんじからいうと「問題をみて、うーんとひとしきり考えて、簡単なものなら30秒くらいで解ける」あたりでしょうか。3手詰のむずかしいやつはマジで難しいので……
ということで、まずは7級くらいまで押し上げる4冊をご紹介します。
ここでの目標は3つです。
・戦法を決めて駒落ちを戦えるようになる。
・攻めの考え方をさらに詳しく身につける。
・1手詰が解けるようになる。
あらためてロードマップをみておきましょう。
6〜2枚落ち:そろそろ戦法を身につけてみよう
8枚落ちから6枚になると、突然難しさがはねあがります。
まず上手(ハンデをつけているほう)の防御力が段違いに上がり、陣形を突破することそのものが難しくなります。
必然、上手陣を突破するためには駒の交換をしなければならない場面が増えます。
そうすると上手が手にした駒で攻撃してくることもしょっちゅうです。
となると、下手も「玉を守りながら攻める」ことを意識する必要が出てきます。
ここらでどの戦法を使うかひとつ決めて、それに従って「数の攻め」と「囲って守る」ことを覚えていきましょう。いくつかオススメの戦法を紹介するので、性に合いそうなものを選んでみてください。遠山先生の本でいうと5章以降のあたりを、それぞれの戦法に置きかえて読んでみてください。
守りを後回しにして攻めまくる:棒銀
棒銀、とくに「原始棒銀」にはあらゆる戦法の基本が詰まっていると言われています。
ぼくは後述する中飛車を愛用していますが、たしかに中飛車の攻め方も棒銀とかなり似ていると感じます。銀を繰り出し、飛車と連携させることは将棋の基礎中の基礎だからです。
「基本」を侮ってはいけません。じっさい棒銀はめちゃ強いのです。受ける側はちょっと間違えば秒速で潰されます。
そのかわり、守りに割くはずの手数を攻撃にまわしているという一面もあります。攻めに失敗するといっぺんに崩される危険といつも隣り合わせだと思っておきましょう。
速攻で攻撃してからキリのいいところで矢倉に囲う、玉をさっさと逃がす、などアタマの切り替えが要求されます。
堅守速攻、しっかり囲いながらも積極的に攻める:中飛車
もうすこし攻撃と守備のバランスを重視しているのが中飛車です。これまたシンプルに破壊力が高い。しかも(片)美濃囲いが早く囲えて堅い。プロの手を真似しやすい。棒銀とともに、使って非常に楽しい戦法です。
攻めどころで角などの大駒を犠牲にする大技を繰り出せたりする反面、時機を間違うとそのままカウンターを決められる危うさもあります。
ツノ銀中飛車という形をとれば、相手の攻めを誘発しカウンターを狙う陣形とすることもできます。
バランスのよい形で着実に攻める:四間飛車
アマチュア一番人気。それもそのはず、異常に使いやすいのです。基本陣形のバランスがよく、相手の攻めをいなしてカウンターを決めるスタイルもとれるし、積極的に攻撃するスタイルもとれる。相手を選ばず組むことができる。プロの積み上げも膨大なので、質の高い定跡書も豊富。そして本美濃囲いがかんたんに組めるのに堅い。ヤバい。
地に足のついた将棋を指したいなら、四間飛車が間違いありません。
なんでこの3つなの?
理由は以下になります。
相手と状況を(おおよそ)選ばず使える=勉強をコンパクトにできる
とにかくこれに尽きます。居飛車のほかの戦法は相手に合わせて手を変える必要がありすぎます。だからこそ奥深く楽しいともいえるのですが、時間のない大人、しかも入門したてのアマチュアがカッコつけてもいいことはありません。
バタフライ泳法がやりたいなら、まず背泳ぎと平泳ぎ。それからクロール。物事には順序があります。
さらにいえば、将棋はバタフライに平泳ぎが勝ったりします(もちろん比喩表現です)。やりやすい戦法で楽しく指す。これ以上の上達法はないと思います。
良書が多いので参考にしやすい
これもかなり大きいです。たとえば振り飛車でも三間飛車は現代将棋で大きく注目を浴びている戦法ですが、まだまだ整理が行われている最中で、初心者に読みやすい定跡書を探すのはたいへんです。先後で考え方がだいぶ変わる戦法でもあります(後手で石田流三間飛車するのはだいぶ苦しい、など)。
その点、紹介した3戦法は良書の充実すること甚だしいので安心です。やはり良いガイドがあることがいちばん。
やりたい戦法がすでにあるなら、それでもいい
とはいえ、これはあくまで「オススメ」であって、絶対でもなんでもありません。フォロワーさんには「水曜どうでしょうのうれしー(嬉野D)が好きだから」という理由で最初の戦法を嬉野流にしたというかたがいます。友人には、誰にでもなんでも矢倉で挑むというやつがいます。これがまー強い。
好きこそもののなんとやら、こだわりで選ぶのは悪いことではありません。
棒銀と中飛車を選ぶなら:高橋道雄『棒銀と中飛車で駒落ちを勝て!』
攻めて楽しもう!という御仁にはこちら。
しかも攻めるだけじゃない。棒銀と中飛車であっても、しっかり囲って守ることまで勉強できるすぐれもの。
四間飛車を選ぶなら:高橋道雄『駒落ち新定跡』
四間飛車らしい重厚さでじっくり攻める方法が学べます。こちらは矢倉と三間飛車穴熊も同時収録。お買い得ですよ。
なんでいわゆる「駒落ち定跡」をオススメしないの?
戦法も身について一石二鳥
今回はあくまで「戦法を身につける一貫」として駒落ちをやっていこうというのがコンセプトです。
さらにいうと、駒落ち専用の定跡は「その手合を最速・最高効率で攻略する」ためのもので、それじたいはめちゃ勉強になるんですが、ホントの初心者ではその良さを拾いきれないというか、やっぱりある程度わかってきてから、高段者と指すさいにようやくありがたみがわかるたぐいのものに思うんですね。
駒落ち攻略としてはすこしくらい迂遠でも、「まず戦法を明示して、さらに囲って、その戦法で崩す」という感覚を掴んでおくのは良いことのように思います。
寄せまでしっかり示してくれる
それだけじゃないんです。この2冊、ふつうの定跡書では「下手勝勢」で放り出されるところよりちゃんと先に進めて、完全に詰みというところまで手順を示してくれます。
まったく同じ局面になることはないにしても、詰みまでの方針がわかるのは初級者にとってはありがたいことです。
さらに覚えたことが平手にも応用できる。こんなにうれしいことはない!
ということで、この2冊から学ぶのがいいと思う理由でした。
これでいくという戦法をひとつ選んだら、どちらか1冊、その戦法の章だけ読んでみましょう。
攻めの考え方をもうすこし詳しく知る:藤井猛『藤井猛の攻めの基本戦略』
「将棋は守備駒のほうが多いゲーム」
「攻めは飛角銀桂」
「銀の隣の筋を突く」
「攻め駒を駒台に置くのは得、守備駒は損」
「相手の駒を自戦力にする」
「戦力は一点集中し、数で勝る」
「執拗に噛み付く」
「動けない駒を狙う」
「世の定跡は上の組み合わせ、とくに動けない駒を狙うように組み立てられている」
といった、攻めるときに有効な考え方を簡単な実例から応用例まで、1冊でステップを踏んで学べます。
これがわかりやすいのに内容の異様に濃い一冊で、今までぼんやりと「そうだろうなー」と感じていたものがシャープに具体的にわかるようになります。藤井先生はすごいんだぞ。
これはぜひ3周してほしい本です。なんか違うなと思ったら、ここに立ち戻るとたくさんの発見があります。
1手詰を解く:日本将棋連盟『藤井聡太推薦! 将棋が強くなる実戦1手詰』
戦法・考え方・ときて最後に問題集です。ついに今回は1手詰!
なんで詰将棋なの?
詰将棋、だるいですよね。基礎練習が大事といわれれば言われるほどやりたくない。
「解けない」ということで突きつけられる、実力が足りないという事実。でもじっさい効くからしょうがないんです。
1手詰のメリットはなんといっても「駒の動き、利きを身体に染み込ませることができる」という点です。考えなくても息をするように駒を使うことができるようになること。これが大事です。
そのほかの効能については、以下のブログを読んでみるといいかもしれません。説得されましょう。
なんで『ハンドブックシリーズ』じゃないの?
詰将棋といえば『ハンドブックシリーズ』が有名で、実際たいへんためになります。ぼくもお世話になっています。解説も丁寧だし、実戦に応用が利くし、構成もすぐれています。
しかしこの『実戦1手詰』、というか5手詰までの「実戦・基本・明解」のセットシリーズが「詰将棋の考え方の参考書」として異常に丁寧、というところを評価したいと思います。
異常に丁寧で充実した前置きと例題、解きやすい難易度
詰将棋ってなにを考えて解いたらいいの?ということがたいへんわかりやすくまとめてあり、続く問題の難易度も『ハンドブックシリーズ』に比べれば簡単です。「こうすれば解ける」がすぐ身について、「じぶんで考えて解く」楽しみがある。解けることで自信にも繋がります。
ざかざか解いて次へとつなげましょう。
以上、ご紹介した3冊をひととおりこなして、平手に進みましょう。もしかしたらもう「ぴよ将棋」の15級あたりになら、平手楽勝で勝てるようになっているかもしれませんね。
次回はいよいよ平手ベースの勉強に移行していきます。そろそろ5級が視野に入ってきましたね。